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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)69号 判決

原告

全逓信労働組合

右代表者

下田善八

右訴訟代理人

仲田晋

外一名

被告

公共企業体等労働委員会

右代表者

峯村光郎

右指定代理人

郷田彰

参加人

右代表者

前尾繁三郎

右指定代理人

森脇勝

外一名

主文

一  申立人原告全逓信労働組合、被申立人郵政大臣および新宿郵便局長間の昭和四〇年(不)第二号事件につき、被告が昭和四二年二月一三日にした別紙命令書記載の命令中、(1)新宿郵便局長加藤秀松が昭和四〇年五月一三日貯金募集打合会でした発言、(2)同郵便局長が同月一六日自宅においてした郵政労働組合への加入のしようよう、(3)同郵便局長が同年四月二〇日同郵便局長室において臨時補充員小林宏一らにした発言、(4)同年五月一〇日の原告組合新宿支部の職場集会に対する妨害、(5)同年六月七日の原告組合新宿支部の職場集会に対する監視および(6)同月一一日の原告組合新宿支部の職場集会に対する監視がいずれも不当労働行為を構成しないとして、ならびに(7)同郵便局庶務課長福島圭二らが同月一〇日原告組合新宿支部の組合掲示物を撤去した行為に対して救済命令を発する必要がないとして、これらの点に関する原告の救済申立てを棄却した部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、本訴によつて生じた部分を二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とし、参加によつて生じた部分を二分し、その一を原告の、その余を参加人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

(一)  被告が昭和四二年二月一三日にした主文第一項記載の命令を取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  請求原因

一  本件命令

原告は、郵政大臣および新宿郵便局長を被申立人として、別紙命令書中、理由第1に記載した事項(1ないし3)を不当労働行為であるとして、被告に対し、(1)速やかに原状回復の措置をとること、(2)今後一切この種の不当労働行為を行なわない旨の誓約および右不当労働行為に対する陳謝の意を掲載することの救済命令を求める申立てをした。被告は、昭和四二年二月一三日右申立てを棄却する旨の命令を発した。この命令書の写しは同月一五日に原告に交付された。

二  命令の違法性〈以下略〉

理由

一本件命令

請求原因第一項記載の事実および本件命令は、原告主張のとおり、原告主張の事実がいずれも不当労働行為を構成しないか、または救済命令を発する必要がないとして、原告の申立てを棄却したことは、当事者間に争いない。

二本件の背景

(一)  全逓に対する批判的勢力の台頭と郵政労新宿支部結成まで

(1)  郵政省は、昭和三八年七月簡易保険積立金を都道府県を通じて特定郵便局長に貸し付け、特定郵便局の局舎を改善する措置(以下この措置を簡保転貸債という。)を実施することとしたこと、ところが、全逓は、この措置に反対し、年末闘争ともからめて長期にわたつて闘争を行ない、このため、同年末には、約一か月間三六協定が結ばれない状態が続いたこと、これに対して、全逓新宿支部組合員岡崎定雄、犬塚強一、藤森信吾、武藤光昭、山中紫郎および三上健ら六〇数名は、この全逓の闘争を批判して、同年一二月二〇日に「簡保転貸債問題は一まず棚上げし、年末闘争を早期に終結せよ。」「公衆の迷惑を考え三六協定を締結せよ。」「全逓幹部は、下部組合員ならびに家族の困窮をみつめよ。」という抗議声明を発したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、右抗議声明を発したグループは二〇日会と称していたこと、二〇日会は、その後前記一二月二〇日の全逓に対する抗議声明にもかかわらず、全逓の闘争主義的な態度が改まつていないので、重大な決意をせざるを得ないという決議をして、全逓からの脱退をほのめかし、また同会の有力な一員であつた新宿郵便局第一郵便課主事清水忠蔵(後に同課課長代理に昇任した。)は、全逓を脱退しようというビラを配つたり、これに対する賛成者の署名を求めたりしたこと、しかし、簡保転貸債反対および年末闘争は、同年一二月二七日妥結したため、二〇日会の活動は自然に消滅したことが認められる。

(2)  昭和三九年一二月一〇日、新宿郵便局の課長代理、主事ら二〇数名が同局近くのいでゆ旅館に集合し、三九会という会を結成し、引きつづき同旅館で忘年会を行なつたことは、当事者間に争いない。〈証拠〉によれば、三九会は、名目上親睦を目的とすることを標榜していたが、同会が年末闘争のさ中に結成されたことや、後記認定のとおり同会の集会に郵便局職制が出席したことなどから、全逓は、同会を反組合的な勢力の結集と受けとめていたことが認められる。

(3)  昭和四〇年三月二五日、全逓組合員清水忠蔵、北川博俊、水落竹次郎ら一〇数名が新宿郵便局附近の相模屋旅館に集まり、新宿郵便局の職場を明るくすることを標榜して、新生会の結成準備会を開き、同会会長に北川博俊、同会副会長に山根義久を決めたこと、同人らは、同年四月五日四谷ユースホステルで新生会の結成大会を開いたこと、この大会において決定された新生会会則によれば、同会は、「管理者および全逓組合員を除く」新宿郵便局職員で構成し、「会員の親睦と社会的地位の向上および労働条件の維持改善をはかり新宿郵便局の職場を明朗にすることに寄与する」ことを目的としたこと、同日、同人らは、新宿郵便局有志の名で、全逓新宿支部長住谷茂に対して、最近における同支部の運営と行動には全く常軌を逸したものが多く、看過し得ないものがあるとして、「公衆に迷惑をかける能率ダウンをやめさせよ。」、「公衆のひんしゆくをかうような被服の不正常な着用、言動を改めさせよ。」「三六協定をかるがるしく闘争の具に供するな。」「役員は総退陣し、民主的、建設的な組合に改組すべきこと。」その他数項目について申し入れ、これが直ちに実行されない場合には、同人らは独自の判断に基づき断固たる行動に出ざるを得ないことを付言したことは、当事者間に争いない。

そして、〈証拠〉によれば、新生会の幹部である北川博俊ら七名は同年四月六日新宿郵便局を明るくするための有志という名で、良識ある新宿局員の皆さんに訴えると題する書面に「ここ数年来闘争にあけくれる新宿局に勤務して、しみじみと職場の暗さや、いやさを味わいました。そこで新宿郵便局の職場を明るくしようという志のある者が集まりまして、明るい職場を作るために、四月五日全逓新宿支部長あて、次の申入書を提出し立ち上りました。良識ある新宿郵便局員の方々のご参加とご支援を願います。」と記載し、これに前記申入書の文言を付記して、同郵便局職員に配付したことが認められる。

(4)  全逓新宿支部は新生会の前記申入れに対して回答をしなかつたため、新生会会員の大部分の者は、同年四月一九日全逓を脱退する旨の手続をとつたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、同日全逓脱退の手続をとつた新生会員は三〇名であること、新生会会長北川博俊は、同月二三日新宿郵便局員にあて、新生会の会則と全逓脱退声明書を同封した書簡を発送して、新生会への加入を勧誘したこと、その声明書の一節には、「全逓支部執行部は我々の申入れに対して一顧だに与えず、しかも依然として世論を無視し、また正しい労働運動を提唱する多くの組合員の声をふみにじつておいて、物ダメ闘争に狂奔し……」と記載して全逓新宿支部の闘争の仕方を非難していること、全逓新宿支部は、四月一九日を第一波として、同月二三日および三〇日と春闘の実力行使を行なつたが、その都度脱退する組合員が続出したことが認められる。

そして、昭和四〇年六月一日、郵政労新宿支部が組合員約六〇名をもつて結成され、新生会会員は大部分これに加入し、全逓新宿支部の組合員が約四七〇名となつたことは、当事者間に争いない。

(5)  以上認定の事実によれば、新宿郵便局において、全逓新宿支部の組合活動の行き方に批判的な勢力の萌芽は、遠く昭和三八年の年末闘争中ごろに発生したものであるが、それら一部有志の集まりがやがて新生会という団体に結集し、それが発展的に郵政労新宿支部という組合に団結したものと認められるのである。そして、これら一連の反組合的勢力を支えて来た基調は、全逓新宿支部の闘争は、独走する組合幹部が指導する非民主的なもので、徒らに闘争を事とし業務の運営を阻害して能率のダウンを目指すものであつて、かくては公衆に迷惑を及ぼし、世論の支持も得られないし、また労使の対立を激化させて、陰惨な職場を作り出すものであるから、このような方針には断固反対するというのである。したがつて、郵政労新宿支部は、その誕生の由来においては、巷間応々にして激しい闘争の過程から生ずるいわゆる第二組合的な性格を有する。

(二)  郵政労新宿支部結成までの過程において新宿郵便局当局のこれに対する態度

(1)  加藤局長、吉田次長および各課長らが三九会から招待されて、昭和三九年一二月一〇日の忘年会および昭和四〇年二月初旬の新年会に出席して、新宿郵便局の郵便事情が悪いので、諸君も協力してほしいと挨拶したこと、全逓東京地区本部副執行委員長鈴木豊が昭和四〇年四月七日加藤局長に会見し、「職場を明るくする会ができたようだがどうなんだ。」と質問したところ、同局長は、「私はビラを見て知つたが職場を明るくする会の趣旨は結構だと思う。」と答え、さらに同副委員長が、「組合が二つできたりなんかすると局長もやりにくいでしよう。どう思いますか。」と質問すると、同局長は、「仕事をまじめにやろう、きちんとやろうということについては大賛成です。」、「私が新生会をどうするわけにもまいりません。」と答えたことは、当事者間に争いない。

(2)  〈証拠〉によれば、昭和三九年七月加藤局長が新宿郵便局長に任命されたが(この事実は、当事者間に争いない。)、当時同郵便局には郵便物が相当滞留していたので、同局長は、職場規律を確立し、郵便業務の正常化を図ることが必要であると考え、職員に対し、勤務時間の厳守、服務の厳正などを命じたが、職場秩序の乱れは容易に改まらず、加藤局長の業務命令も素直に従われないような状態であつたこと、加藤局長は、このような職場規律の紊乱や能率の低下は、全逓新宿支部の誤つた指導にも原因があるものと考え、苦々しく思つていたこと、一方新生会など台頭し始めた反組合的批判的勢力は、業務の運営にも協力的であると考え、このような勢力が増大することは郵便局としても歓迎すべきことであるとし、その発展を期待していたことが認められる。

(3)  以上の事実と後記認定のような新宿郵便局当局による全逓新宿支部に加えられた数々の支配介入の不当労働行為の事実によれば、同郵便局職制は、全逓新宿支部の活動を一般的に嫌悪する反面、新生会から郵政労新宿支部へと発展する反組合的勢力の育成に留意し、その成長を期待していたことが明らかである。

三全逓脱退しようよう・新生会加入しようよう等について

(一)  五十嵐職員に対する新生会入会のしようようについて

〈証拠〉には、吉田次長が昭和四〇年四月二四日昼ごろ郵便局洗面所において、五十嵐職員に対し、新生会に入らないかと言つた旨の記載があるが、これは〈証拠〉に照らし措信しない。その他原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  小野職員に対する新生会入会しようようについて

小野職員が五月五・六日ころ河野酒店において、水落職員から新生会への入会をすすめられたこと、小野職員が同月一七日午後七時ごろ新宿郵便局の廊下で福島課長に会つたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉には、小野職員が原告主張のとおり、福島課長から新生会へ入会するかどうかをただされた旨の記載があるが、これは〈証拠〉に照らして措信しない。その他原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

(三)  加藤局長の貯金募集打合会での発言

(1)  事実関係

加藤局長が五月一三日の貯金募集打合会の席上、命令書理由第2二(一)3記載のとおり発言したことは、当事者間に争いない。〈証拠〉によれば、加藤局長は、その際、外務主事以下外務員約二〇名に対して、「新生会は、善良な人達が作つた会であるから悪い会ではない。あなた達は善良な人達だから、今やつている組合の行動はよくわかるだろう。極力組合にはいかないように。組合の行動にはまき込まれないように。」と言つたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(2)  不当労働行為の成否

労働者または労働組合が言論の自由を保障されていると同様に、使用者もまた言論の自由を有する。使用者がこれと対抗関係にある労働組合の綱領や運動方針について一般的に意見を述べることは、それが批判ないし非難にわたることがあつても、一般的な意見の範ちゆうにとどまる限りは、言論の自由に属するから、不当労働行為を構成しない。しかし、一般的な意見の表明にとどまらず、具体的に組合の結成、運営または個々の労働者の組合への加入、組合からの脱退に立ち入つて個別的な発言をすることは、違法性を帯びて、労働組合の結成または運営に対する支配介入となるのである。

新生会が昭和四〇年四月五日に結成され、既に原告組合に対する批判的勢力として台頭しており、同月一九日からは新生会員が続々と原告組合を脱退し、六月一日の郵政労新宿支部の結成に向つて結集しつつあつたことは、前認定のとおりである。時あたかも、組合は分裂の危機に直面していたのである。加藤局長は、いわばこの天王山ともいうべき非常事態において、公式の席上で前認定の発言をしたのである。それは、新生会を賞揚するとともに、逆に原告組合が行なつている運動を非難し、これを支持しないように働きかけを表明するものである。それは、言外に、職員が新生会(第二組合たる郵政労の胎児)に加入することを期待するとともに、逆に具体的な原告組合の運動に反対することを要請することによつて、その弱体化を意図したものといわなければならない。このことは、分裂の渦中にある組合員には、その表現自体と当時の状況から十分察知できることである。一企業内に両立する組合がある場合に、両者を比較して、一方を賞揚してこれに加担し、他方を非難してこれを否定するような使用者の言葉は、も早一般的な組合の方針に対する批判として言論の自由の枠内において保障されるものではない。これは、原告組合の運営に対する支配介入として、不当労働行為を構成するのである。したがつて、これが不当労働行為を構成しないとして、この点に関する原告の申立てを棄却した本件命令は、この部分に限り違法である。

(四)  局長自宅における郵政労加入のしようようについて

(1)  事実関係

清水課長代理が五月一六日午後八時半ごろ第一郵便課臨時補充員岩崎伸儀、同田中惟一郎および同鈴木崇元を連れて加藤局長自宅を訪れたこと、その時先客として集配課長代理中村清一、統括責任者である斉藤幹愛、佐藤秀雄、池沢昇および宮下敏男が来ており、六畳の部屋で酒肴を並べて歓談中であつたこと、当時右五名のうち宮下は全逓組合員であつたが、中村は郵政労組合員であり、斉藤、佐藤および池沢は全逓新宿支部に脱退届を出していたこと、加藤局長は、清水課長代理ら四名を同席させたが、同課長代理は、「ここに集まつた者は同じ考えの者で、私と同じ第一郵便課に勤務している者です。」と言つて鈴木職員らを先客に紹介したこと、加藤局長は鈴木職員らに酒をすすめたが、その席上、「郵政事業は三代しなければ一つの仕事を達成できないと私は考えている。全逓の闘争主義者たちは三代かからなければできないことを破壊する。」旨の発言をしたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、清水課長代理は、その席で、鈴木、田中および岩崎の三職員に対し、「君達三名で臨時補充員を郵政労へ入れてくれ。」と要請し、鈴木および田中両職員に郵政労への加入届を配り、三名にそれに署名捺印を求めたこと(岩崎職員には予め加入届が交付されていた。)、田中職員は、その場で加入届に署名して清水課長代理に提出したが、鈴木職員が「これはどういう用紙ですか」と質問したところ、同人の隣に坐つていた加藤局長は、「これは郵政省の正規の組合だ。」と言つたこと、鈴木職員が「しばらく研究さして下さい。」と言つたところ、加藤局長は、「ええ」とうなずいたことが認められる。〈証拠判断・省略〉。

(2)  不当労働行為の成否

加藤局長が郵政労を指して、それが郵政省の正規の組合であるという発言だけを単独に取り上げるならば、それ自体は至極当然なことで、不当労働行為と無縁なものと考えられないではない。しかし、事は、その発言がなされた当時の状況の下で、その発言がどう理解され、その結果労使関係にいかなる影響を及ぼすかということである。五月一六日といえば、既に全逓に対する批判的グールプは、反旗を翻して新生会を結成し、その同志は陸続として全逓を脱退し、六月一日の郵政労新宿支部の結成に向つて前進していたことは、前認定のとおりである。郵政省の職員は、労働者として去就を決すべき重大な時機であつたし、特に採用後日の浅い臨時補充員は、いずれに組すべきか決断を迫られる時機に際会していた。加藤局長は、このような時に、自宅の酒席において、しかも全逓に離反した多くの幹部職員の目の前で、臨時補充員に対して、全逓の闘争主義者たちは郵政事業を破壊すると言つて、公然と全逓を非難し、あまつさえ、新生会の有力な推進者たる清水課長代理が郵政労加入をしようようするのを座視するだけではなく、はたから郵政労は郵政省の正規の組合だと口をはさんでいるのである。

これによつてみれば、加藤局長の一連の発言は、全逓の運動方針を誹謗することによつて、臨時補充員が全逓に加入することを阻止し、逆に郵政労を暗に賞揚することによつて、臨時補充員が郵政労に加入することを奨励するものと解されるのである。労働者が労働組合に加入するかどうか、加入するとすれば、どの組合を選択するかは、団結の自由または団結権として法の保障するところである。使用者がこれに関与して、労働者の権利または自由に影響を及ぼすことは、許されない。使用者がこれに容かいすることは、組合の結成ないし運営に対する支配介入となるのである。そうすると、加藤局長の発言は、組合の結成に対する支配介入として不当労働行為を構成する。したがつて、これが不当労働行為を構成しないとして、原告の申立てを棄却した本件命令は、この部分に関する限り違法である。

(五)  職員の父兄の呼出について

命令書理由第2二(一)6前段の事実は、当事者間に争いない。

〈証拠〉には、集配課臨時補充員福島清治の母が五月二八日郵便局から呼出を受け、加藤局長らから福島清治が組合の先頭に立つてやつてはだめだと言われたとの記載(伝聞)がある。しかし、これは、〈証拠〉に照らして措信しない。その他原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

四全逓の誹謗・郵政労の賞揚等について

(一)  小林職員らに対する局長の発言について

(1)  事実関係

加藤局長が昭和四〇年四月二〇日午前九時ごろから2.30分間、集配課の臨時補充員である小林宏一、松島市郎、渋川久雄、佐藤忠二、佐藤文雄および小沢良雄を局長室に呼んで話をしたこと、この際、加藤局長は、「仕事になれたか。」ときりだし、自己の少年時代の苦労話をしたあと、「組合に入りましたか。一度組合に入るとなかなか出られなくなるから、入るんだつたらよく考えて入りなさい。」「職場でも休憩室でも暗くなつてしまうほどビラがはつてある。職場の中でもゴタゴタしている。」という趣旨の話をしたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、加藤局長は、前記のとおり組合に入つたかと尋ねたところ、右臨時補充員らは、まだ入つていないと答えたこと、次いで同局長は、その際「職場を明るくする会がある。そういう人たちがいるけれど、その人たちはいいですね。」と言つたこと、これを聞いた小林宏一は、後日新生会の存在を知つて、加藤局長の言つた職場を明るくする会とは、新生会のことだと感じたことが認められる。〈証拠判断省略〉。

(2)  不当労働行為の成否

加藤局長の前認定の発言は、全逓の組合活動の仕方を批判するとともに、職場を明るくする会(新生会)を賞揚することによつて、言外に臨時補充員が全逓に加入しないことを期待していることをにおわすものである。右発言が、新生会結成後で、新生会の会員の大部分(三〇名)が全逓から脱退する手続をとつた日の翌日になされ、しかもその対象が採用後日浅く、まだいずれの組合にも加入していない臨時補充員であることに思をいたせば、これは、前記三(四)(2)に説示したと同様の理により、組合の結成に対する支配介入として不当労働行為を構成する。したがつて、これが不当労働行為を構成しないとして、この点に関する原告の申立てを棄却した本件命令は、この部分に関する限り違法である。

(二)  高橋書記長および上野執行委員についての誹謗について

伊藤集配課長が福島職員に対して、命令書理由第2二(二)2記載のような注意をしたことは、当事者間に争いない。しかし、〈証拠〉によつても、伊藤集配課長が高橋書記長および上野執行委員の組合活動に関して、同人らを非難したことを認めるに足りず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  木口青年部副部長および上野執行委員の誹謗について伊藤集配課長が集配作業中の職員の前で、「木口だとか、上野だとか一回まわるのに何日かかるんだ。」と言つたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉には、木口敏宏は、同人らと同程度の作業能率の職員が外にもいるのに、木口と上野が特に注意されたのだから、これは同人らが組合役員として組合活動をしていたためになされたものと思つたという供述記載がある。しかし、これは単なる意見の陳述にとどまるから、これをもつて木口らに対する注意が組合活動の故になされたと認めることはできないし、他にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて、〈証拠〉によれば、木口および上野は、集配課員として担当する郵便物配達の作業能率が、他の者と比べて極端に劣悪であつたがために、伊藤課長が同人らに前記のような注意をしたことが認められるのである。全逓役員であるがために、担当する職務を怠つても、看過さるべきであるという理由は全くないから、右発言は不当労働行為とはならない。

五差別人事関係について

(一)  井上執行委員および松尾職員の配置換えについて

同人らが命令書理由第2三1記載のとおり配置換えされたことは、当事者間に争いない。しかし、この配置換えが同人らの組合活動を困難ならしめるためになされたことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  池沢職員の統括責任者への任命について

加藤局長が四月二一日付で新生会会員である集配課主任池沢昇を同課の班の統括責任者に任命したことは、当事者間に争いない。しかし、右任命が、池沢が全逓を脱退したための褒賞としてなされたことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  北川職員の昇任について

第一郵便課主任北川博俊が五月一四日付で主事に任命されたことは、当事者間に争いない。

北川博俊が昭和四〇年三月二五日の新生会結成準備会で同会の会長に決つたこと、新宿郵便局職制が新生会の成長を期待していたことは、前認定のとおりである。そして〈証拠〉によれば、郵便局においては、職階制は主任から主事に昇格するのであり、北川は主任在職約二年余りで前記のとおり主事に昇任したが、当時新宿郵便局においては、同人より先任にして、当時までに既に七、八年間主任として在職していた者がいることが認められ、また〈証拠〉によれば、北川の昇任人事は、新宿郵便局としては、他に類例をみない特殊な例であつたことが認められる。

これらの事実によれば、北川の昇任は、同人が新生会会長として活動したことに対する論功としてなされたものではないかという疑がないではない。しかし、職員の昇任人事は、職員の配置、欠員の状況、本人の経験、能力、適性などを総合して決められるものであるから、ある昇任が他と比較して不当に有利な処分であるとされるためには、他の職員との能力の比較等について具体的な根拠が示されなければならない。そうすると、前認定の事実だけでは、北川の昇任が合理性がないものと判断するには十分ではないし、したがつてまたこれだけでは、それが新生会活動の論功として行なわれたことを認めるに足りない。その他原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  研修所への入所遅延について

(1)  福島および野沢職員について

同人らが昭和三九年八月新宿郵便局に臨時補充員として採用されたこと、当時同局においては、採用後ほぼ6.7か月後に研修所へ入所するのが通常であつたが、同人らは採用後約一一か月後の昭和四〇年七月に研修所に入所したことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によつても、右遅延の原因が同人らが原告組合に加入したことの報復としてなされたことを認めるに足りず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

(2)  鈴木職員について

同人が昭和四〇三年三月新宿郵便局に臨時補充員として採用されたものであり、同人とともに臨時補充員として採用された岩崎伸儀および田中惟一郎が同年七月七日研修所入所予定であつたのに、鈴木職員は同日入所できなかつたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉および証人鈴木崇元の証言によつても、鈴木が同日入所できなかつたことが、同人が原告組合に加入したための報復としてなされたことを認めるに足りず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

六職場集会の妨害、掲示物の撤去等関係について

(一)  四月二〇日の職場集会妨害について

(1)  事実関係

全逓組合員約六〇名が昭和四〇年四月二〇日午後五時ごろから、保険課外務室において職場集会を開いたこと、しかしこの集会に外務室を利用することについて郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、加藤局長らが同集会場におもむき、解散するように通告したが、この集会が五時一〇分ごろまで続行されたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、加藤局長は、右通告後帰りがけに「新宿支部は革命の練習をやつている。」と言つたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(2)  不当労働行為の成否

組合が職場集会を開くことは、適法な組合活動である。しかし、職場集会の開催それ自体と、そのために庁舎の一部を使用することとは別問題である。職場集会が適法だからといつて、庁舎の使用までが適法化されるものではない。郵便局の保険課外務室は、郵便局職員の事務のための建物の一部であつて、公用財産に属する国有の公物である。郵便局長は、大蔵大臣の権限に由来する公物たる郵便局施設の管理権を有するから、その一部が公物設置の目的に反して、第三者によつて無断使用される場合は、その目的に対する障害を除去するため、その排除すなわち解散の通告をする権限を有する。第三者がいわゆる企業内組合である全逓の支部であつても、この理は異ならない。けだし、全逓も、郵便局舎の管理権者からみれば第三者であるからである。そうすると、加藤局長が前認定のとおり無許可集会の解散を命じたことは適法な庁舎管理権の行使というべきであるから、組合の運営に対する支配介入とはならない。

使用者の発言が不当労働行為となるかどうかは、その発言がなされた時期、場所、環境、相手方等を総合して組合の運営に対して支配力を及ぼしたかどうかによつて決すべきである。前認定によれば、加藤局長は、帰りがけに、「新宿支部は革命の練習をやつている。」と言つたのである。これによれば、加藤局長の発言は、いわば独白的になされたものと考えられるから、他に特段の事情のない限り、これにより原告組合の運営に対して悪影響を及ぼす程度のものとは解されない。そうすると、この発言が原告組合の運営を支配すると認めることはできない。

したがつて、この点に関しては、不当労働行為が成立しない。

(二)  五月一〇日の職場集会妨害について

(1)  事実関係

休憩時間中の全逓組合員約7.80名が昭和四〇年五月一〇日午後零時三五分ごろから、集配課休憩室において、職場集会を開いたこと、この集会に休憩室を利用することについて、特に郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、同集会場に吉田次長らがおもむき、再三携帯マイクまたは大声で解散するよう通告したこと、この集会が一時ごろまで続行されたことは、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、郵政省の就業規則第二一条は、「国有財産の使用に関する取扱いは、次によること」とし、その第一号は、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと」と定めていること、しかし、新宿郵便局の場合は、昭和三九年一一月ごろからは、組合が休憩室を集会等に使用する場合は、使用許可願を提出することなく自由に使用していたこと、しかもこの組合の休憩室自由使用について、郵便局当局が異議を述べたり、禁止措置をとつたりしたことはないことが認められる。

(2)  不当労働行為の成否

休憩室は、その施設設置の目的に徴し、本来職員の自由使用に委ねられている所である。それを利用する職員が組合員であるからといつて、これを異別に取り扱うべき理由はない。そして、職員が休憩室を利用する態様は、それが施設に損傷を及ぼしたり、または排他的であつて他の職員の自由使用をことさら妨げたりしない限り、使用者によつて制約されるべきものではないのである。その使用が、組合の集会のためであることと、例えば娯楽のための集会であることによつて、許否を区別すべき理由はない。現に新宿郵便局の場合には、昭和三九年一一月ごろから組合は、休憩室を特段に使用許可を受けることなくして使用し、当局もこれについて別段の禁止措置を講じなかつたのである。これは、集会が休憩室本来の使用目的に背馳する態様のものではなかつたからと思われる。したがつて、組合の休憩室の排他的使用によつて、非組合員たる他の多くの職員の休憩室使用が顕著に妨害されるとか、その集会に職員以外の者を導入するとか等休憩室使用目的の障害事由が発生しない限り、庁舎管理権の発動としては、その集会の解散を命ずることは許されないのである。

そのような特段の事情の存在したことについては、主張立証がない。それなのに吉田次長らは、携帯マイクまたは大声で解散を通告したのである。そうするとこの解散通告は、必要なものとも、適当なものとも認められないから、適法な職場集会に対する妨害行為といわざるを得ない。したがつて、これは、組合の運営に対する支配介入として、不当労働行為を構成する。よつて、この点に関する原告の申立てを棄却した本件命令は、この部分に関する限り、違法である。

(三)  組合掲示物の撤去について

(1)  事実関係

命令書理由第2四3記載の事実は、当事者間に争いない。

(2)  不当労働行為の成否と救済命令の要否

使用者が組合に掲示板の使用を一旦認めた以上、組合がいかなる内容の掲示をしようとも、それは組合の権限に属する。掲示物の貼布について、いちいち使用者の許可を得なければならない根拠はない。貼布について使用者の許可を得ない組合の掲示物を、使用者が組合に無断で撤去することは、組合の情報宣伝活動の妨害行為として、組合の運営に対する介入となる。前認定の事実は、まさにこの場合に当たるから、福島課長らが掲示物を撤去した行為は不当労働行為を構成する。

労働委員会は、申立てにかかる事項が不当労働行為と認定できる場合は、救済命令を発しなければならないが、いかなる内容の救済命令を発するかについては、明文の規定がないから、労働委員会の裁量に委ねられていると解するより外ない。しかも、それが行政委員会の命令であることを考えれば、判決のように申立てに拘束される(民訴一八六条)ものとは解しえないのである。そうすると、労働委員会は、不当労働行為の態様、程度、その前後の労使関係などを総合的に判断して、過去になされた不当労働行為の原状回復的な救済または将来同種の不当労働行為が繰り返されないための予防措置等の方法を命ずることによつて、労使間の不公正を是正し、正当な労使関係の樹立を期すべきなのである。不当労働行為がなされた場合に、救済命令を発するかどうかおよびその内容をどうするかについては、以上のような救済命令の目的に照らし、自ら制約があるのであつて、労働委員会の全くの自由裁量に委ねられたものではない。もつとも不当労働行為があつても、どのような救済命令を発することも、法律上も事実上も無意味である場合が存在することを観念的には認めざるを得ない。このような場合には、申立てを棄却することは、労働委員会の裁量に属することを法は予定していると考えるべきであろう。法は無意味なことを要求するものではないからである。しかし、いやしくも不当労働行為の事実が認定され、それに対して何らかの救済命令を発することが無意味でない場合は、労働委員会が救済命令を発することを拒むことは許されないのである。これを担否することは、労働者救済という不当労働行為制度の目的をじゅうりんし、労働委員会がその任務を放てきするに等しいからである。

本件においては、原告は、前記場示物の撤去を不当労働行為であるとして、被申立人たる郵政大臣または新宿郵便局長が、(1)速やかに原状回復の措置をとること、(2)今後一切この種の不当労働行為を行なわない旨の誓約および右不当労働行為に対する陳謝の意を掲載することの救済命令を求める申立てをしている。撤去した掲示物の内容は明らかでないが、それがある特定の日に開かれる組合の集会の告知のようなものであれば、その日時後に原状回復の救済命令を発することは無意味であろう。しかし、この場合にも、被申立人が今後この種の不当労働行為を行なわない旨誓約するとか、右不当労働行為に対して原告に陳謝することを命ずる旨の救済命令を発することは、決して無意味なことではないのである。もつとも、被告委員会が認定したとおり、郵政省は、組合に掲示板の設置を許可した以上、個々の掲示物の許可は必要でないという取扱いに改めたというならば、将来この種の不当労働行為をしない旨誓約させることも、無意味であるかもしれない。しかし、掲示物撤去という明白にして典型的な不当労働行為が厳として存在する以上、陳謝を命ずる救済命令の実効を期することは、決して無意味でも不可能でもないのである。この場合、被告は、陳謝という申立ての内容自体には拘束されないとしても、救済命令を発しないという自由は有しないのである。そうすると、前記掲示物撤去を不当労働行為と認定しながら、これに対する救済命令を不必要として、原告の申立てを棄却した本件命令は、その部分に関する限り、裁量を誤つた違法がある。

(四)  六月七日および同月一一日の職場集会の監視について

(1)  事実関係

命令書理由第2四4および第2四6記載の事実は、当事者間に争いない。

〈証拠〉によれば、福島庶務課長および犬塚労務担当主事は、六月七日の場合は、五時一五分ごろから集会の終了する五時四五分ごろまで、六月一一日の場合は午後零時二〇分ごろから集会の終了する零時五五分ごろまで、集会の場所にとどまり、組合員の発言の内容をメモしたり、集会の中に割つて入つて大声で解散を求めたりしたこと、従来新宿郵便局においては、組合が休憩時間中職場集会を開く場合は、業務に支障のない限り、庁舎の一部を使用しており、管理者はこれに対して特別の異議や禁止措置をとらなかつたこと、前記集会を開いた四階年賀区分室附近というところは、会議室と称しているが、通常職員が執務する場所でもないし、事務用品や書類もなく、いわば予備室的なものであつたことが認められる。そして六月七日および一一日とも、組合が年賀区分室附近を集会の場所として使用したことによつて、業務に支障を及ぼしたことの主張立証はない。

(2)  不当労働行為の成否

無許可集会によつて庁舎の一部を使用することが、庁舎管理権に抵触するがために、郵便局長が庁舎管理権に基づいて、無許可集会の解散を命ずることができることは、前述したとおりである。庁舎管理権とは、庁舎が国有の場合は、本来財産権に胚胎する権能であつて、公物たる建物等に損害または危険を及ぼす虞れがある場合に、その損害または危険を除去または予防するために相当な措置を講ずることを第一の内容とし、これとともに公物設置の目的に対する障害の防止と除去をも内容とするものである。一方労働組合の集会は、組合活動として法の保障するところである。わが国のように企業内組合が組合の主流を占めるところにおいては、組合の集会は、多く使用者の施設を使用せざるを得ないことになる。ここに庁舎管理権と団結権(組合活動)との相克を生ずる。いかなる権利といえども、絶対的無制約なものはなく、他の権利による制約を受忍し、これと両立すべき相対性を内包する。すなわち、両者の調和の必要性が生ずるわけである。企業内組合の組合活動が庁舎使用を余儀なくされる場合の多いことを考慮すれば、施設に損害または危険を生ずる虞れや施設設置の目的に障害を及ぼす虞れのない限り、正当な組合活動に対する庁舎管理権の発動は、できる限り抑制的であるのが好ましいということになる。

前認定のとおり、郵政省の就業規則が、組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、業務に支障のない限り認めてさしつかえない旨規定していることと、現に従来は原告組合新宿支部が庁舎の一部を集会等に使用しても、その場所の使用が業務に支障を及ぼさない限り、別段の異議が述べられなかつたことは、前記理念に適合した措置といえる。本件においても、組合が使用した四階年賀区分室附近は普段郵便業務に使用している場所でもないし、また、これを組合の集会に使用することによつて、新宿郵便局の業務上特別の支障や庁舎に損害を及ぼす危険等もなかつたのである。そうすると、同局長が組合または集会の責任者に対して使用禁止を通告することはともかく、集会の運営そのものを妨害するような挙に出ることは、庁舎管理権の目的を逸脱したものと解せざるを得ない。集会そのものは違法ではないのであるから、集会の中に割つて入つて大声で解散を叫ぶとか、組合員の発言の内容をメモする等は、管理権の行使としては行き過ぎである。殊に、労働組合の集会は、個々の労働者の意思を組合の運営に民主的に反映するための最良の手段である。そのため、集会においては、組合員の自発的意思決定と自由な発言が保障されなければならない。労働者が労働組合のために正当な発言をしたことによつて不利益な取扱いを受けてはならないことは、法律的には確立しているが、実際には、職制監視の下の組合集会において個々の労働者が不利益取扱いを恐れることなく、自由な組合活動的発言をすることを期待できるほどには、言論の自由の保障や民主主義の理念は、わが国社会一般には浸透していない。このような社会においては、職制が組合集会を監視することは、組合の構成員としての労働者の自主的な意思決定と自由な発言を阻害し、組合の運営に影響を及ぼすことになるから、組合運営への支配介入となるのである。本件においては、福島課長らは、ほとんど終始集会の状況を監視し、組合員の発言をメモしたりしているのである。組合員の発言をメモすることは庁舎管理権とは、ごう末も関係がない。ここに至つて、福島課長らの前記行為は、組合の運営に対する介入と解さざるを得ないのである。したがつて、この行為が不当労働行為に当たらないとして、原告の申立てを棄却した本件命令は、この部分に限り違法である。

(五)  郵政労働新宿支部への掲示板の供与について

(1)  事実関係

命令書理由第2四5記載の事実は、当事者間に争いない。

(2)  不当労働行為の成否

掲示板は、組合の情報宣伝活動のために必要な施設である。組合員数の多少によつて、情報宣伝活動の必要性や規模に差を生ずる必然性はない。したがつて、郵政労新宿支部に全逓新宿支部と同一大の掲示板を供与したことは、後者に対する不当労働行為とはならない。使用者から見れば、企業内に複数の組合がある場合には、その間に実質的な差別取扱いをしてはならないというのが鉄則であり、両者を差別して取り扱うところに不当労働行為発生の契機がある。原告の言い分は、組合員数に比例して掲示板の大きさを決めるべきであるということのようであるが、それこそ、郵政労新宿支部への不当労働行為を誘発する虞れがあつて、とうてい採用に値しない所論である。

(六)  庁舎使用に関する差別取扱いについて

(1)  事実関係

命令書理由第2四7記載の事実は、新宿郵便局が食堂を他の目的になるべく使用しない方針であつたことを除いて、その余の事実は、当事者間に争いない。

(2)  不当労働行為の成否

右の事実によれば、使用願の対象たる場所が、全逓新宿支部においては食堂であり、郵政労新宿支部においては貯金課外務室であるし、前者は集合人員が一五名で組合事務室が供与されているのに、後者は集合人員が二〇名であるのに組合事務室が供与されていない等、諸条件が違つている。この場合は、異なつた条件の下で異なつた取扱いをすることは、一理があると考えられる。これを差別取扱いというためには、他の特別の事情がなければならないから、右の事実だけでは、これを不当労働行為ということはできない。

七以上により、本件命令中、(1)加藤局長が昭和四〇年五月一三日貯金募集打合会でした発言、(2)同局長が同月一六日自宅においてした郵政労への加入しようよう、(3)同局長が同年四月二〇日同局長室において臨時補充員小林宏一らにした発言(4)同年五月一〇日の原告組合新宿支部の職場集会に対する妨害、(5)同年六月七日の同支部の職場集会に対する監視および(6)同月一一日の同支部の職場集会の監視がいずれも不当労働行為を構成しないとして、ならびに(7)同月一〇日同支部の組合掲示物を撤去した行為に対して救済命令を発する必要がないとして、これらの点に関する原告の救済申立てを棄却した部分を違法として取り消し、原告のその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(岩村弘雄 安達敬 飯塚勝)

命令書

申立人 全逓信労働組合

被申立人郵政大臣 小林武治

被申立人新宿郵便局長 会田恵吉

主文

本件申立てを棄却する。

理由

第一 申立の概要

申立人は、被申立人側が、

全逓信労働組合(以下全逓という。)新宿支部を破壊しようと企て、

一 新宿郷便局職員に対し、全逓に加入しないことまたは全逓から脱退すること、あるいは新生会または郵政労働組合以下郵政労という。)に加入するようしようようする等し、

二 全逓組合員を新生会会員または郵政労組合員より人事管理のうえで不当に差別的に取り扱い、

三 全逓新宿支部の職場集会を妨害したり、同支部の掲示物を一方的に撤去する等して、申立人組合の運営に介入したが、これらは、労働組合法第7条第3号の規定に該当する不当労働行為であるとして、本件申立てを行なつた。

これに対し、被申立人は、申立ての棄却を求めた。

第二 当委員会の認定した事実

一 背景事実

1 昭和三八年七月、郵政省は、簡易保険積立金を都道府県を通じて特定郵便局長に貸し付け特定郵便局の局舎を改善する措置(以下簡保転貸債という。)を実施することとした。

全逓は、この措置に反対し、年末斗争ともからめて長期にわたり斗争を行なつた。

このため、同年末には、約一カ月間三六協定が結ばれない状態がつづいた。

一二月二〇日、全逓新宿支部組合員岡崎定雄、犬塚強一、藤森信吾、武藤光昭、山中紫郎、三上健ら六十数名が、この全逓の斗争を批判して、「簡保転貸債問題は一まず棚上げし、年末斗争を早期に終結せよ。」、「公衆の迷惑を考え三六協定を締結せよ。」、「全逓幹部は、下部組合員並びに家族の困窮をみつめよ。」と抗議声明を発した。

2 昭和三九年七月、新宿郵便局(東京都新宿区)局長に加藤秀松が任命された。当時の新宿郵便局は、郵便物が相当滞留していたので、同局長は職場規律を確立し、郵便業務の正常運行を図ることが必要であると考え、勤務時間の厳守、服務の厳正を期するとともに施設の改善等諸施策を講じた。

3 昭和三九年一二月一〇日、新宿郵便局の課長代理、主事ら二十数名が新宿郵便局附近のいでゆ旅館に集まり、親睦を図るために三九会を結成し、引きつづき同旅館で忘年会を行なつた。この忘年会には、加藤局長、同局次長吉田勝蔵および各課長らが招かれて出席した。その際、加藤局長は、新宿は郵便事情が悪いので自分も一生懸命やるから諸君も協力してほしい旨の挨拶をした。

なお、同局長および同次長は、昭和四〇年二月初旬に行なわれた同会の新年会にも招かれて出席した。

4 昭和四〇年三月二五日、全逓組合員清水忠蔵、北川博俊、水落竹次郎ら十数名が新宿郵便局附近の相模屋旅館に集まり、新宿郵便局の職場を明るくすることを標榜して、新生会の結成準備会を開き、同会会長に北川博俊、同副会長に山根義久を決めた。同人らは、四月五日四谷ユースホステルで新生会の結成大会を開いた。この大会において決定された新生会会則によると、同会は、「管理者および全逓組合員を除く」新宿郵便局職員で構成し、「会員の親睦と社会的地位の向上および労働条件の維持改善をはかり新宿郵便局の職場を明朗にすることに寄与する」ことを目的としていた。同日、同人らは、新宿郵便局有志の名で、全逓新宿支部長住谷茂に対して、最近における同支部の運営と行動には全く常軌を逸したものが多く、看過し得ないものがあるとして、「公衆に迷惑をかける能率ダウンをやめさせよ。」、「公衆のひんしゆくをかうような被服の不正常な着用、言動を改めさせよ。」、「三六協定をかるがるしく斗争の具に供するな。」、「役員は総退陣し民主的、建設的な組合に改組すべきこと。」その他数項目について申し入れ、これが直ちに実行されない場合には、同人らは独自の判断にもとづき断固たる行動に出ざるを得ないことを附言した。四月一九日に至つても回答がなかつたので、同日、新生会会員の大部分の者は全逓脱退の手続をとつた。

5 昭和四〇年四月七日、全逓東京地区本部副執行委員長鈴木豊らが、加藤局長に会見し、同副執行委員長が、「職場を明るくする会ができたようだがどうなんだ。」と質問したのに対して、同局長は、「私はビラをみて知つたが職場を明るくする会の趣旨は結構だと思う。」と答え、さらに同副執行委員長が、「組合が二つできたりなんかすると局長もやりにくいでしよう。どう思いますか。」と質問したのに対して、同局長は、「仕事をまじめにやろう、きちんとやろうということについては大賛成です。」、「私が新生会をどうするわけにもまいりません。」と答えた。

6 昭和四〇年六月一日、郵政労新宿支部が、組合員約六〇名をもつて結成され、新生会会員の大部分の者はこれに加入し、全逓新宿支部の組合員は約四七〇名となつた。

二 全逓脱退・新生会加入しようよう等関係

(一) 全逓脱退しようよう・新生会加入しようよう等について

1 五十嵐職員に対する新生会入会のしようようについて申立人は、全逓組合員である保険課職員五十嵐久資が、四月二四日の昼ごろ洗面所で、吉田次長から新生会へこないかといわれたと主張するが、その事実は認められない。

2 小野職員に対する新生会入会しようようについて

申立人は、全逓組合員である保険課職員小野誠一は、五月五、六日ごろ、新生会会員である貯金課職員水落竹次郎から新生会に加入するようすすめられたが、その後庶務課長福島圭二から、五月一七日および同月二〇日に、「この間の水落さんの話はどうするんだ。」、「新生会に入るのか、入らないのか。」とただされたと主張する。

しかしながら、五月・五・六日ごろ、小野職員は、新宿郵便局附近の河野酒店において、新生会会員である水落職員に新生会への入会をすすめられたこと、五月一七日午後七時ごろ、小野職員は、新宿郵便局の廊下で福島庶務課長に会つたが、その時小野職員はかなり酒を飲んでおり同課長に、「上官殿、私は覚悟をしました。ゆうべ家内と相談したところ家内も賛成してくれたので新生会に入ります。」といつたことおよび五月二〇日午後五時ごろ、福島庶務課長が課長席に小野職員を呼んで、お酒を飲んで局内に入ることはよくないと注意をしたことは認められるが、申立人が主張する発言を、福島庶務課長がしたとは認められない。

3 加藤局長の貯金募集打合会での発言について

申立人は、五月一三日、加藤局長が、貯金課外務室で開かれた職員の貯金募集打合会に出席し、新生会を賞め全逓に加入しないようすすめたと主張する。

しかしながら、五月一三日の貯金募集打合会の席上、同局長が、「新生会の会員の家庭を訪問して新生会から抜けださなければ、宿舎に入れないようにするとか、脅迫めいたことが行なわれているらしいが、お互いにゆきすぎのないようしなさい。」と話したことその他五月一〇日の職場集会会場での全逓新宿支部高橋書記長のけがにふれて、「このけがは、組合は吉田次長の暴行によるものであるといつているが、実は自分で郵袋につまずいて倒れたのであつて決して次長が暴行を働いたものではない。」と話したことは認められるが、申立人が主張する事実があつたとは認められない。

4 萩谷職員に対する新生会入会しようようについて

申立人は、五月一三日ごろ、新生会会員である第一郵便課課長代理清水忠蔵が、全逓組合員である同課職員萩谷哲雄に対し、新生会に加入するようしようようしたが、その際、第一郵便課長武井亀が、同人に対し、「いい話だからよく聞いて考えた方がよい。」と述べたと主張するが、これについてはなんらの立証がない。

5 局長自宅における郵政労加入のしようようについて

五月一六日(日曜日)昼ごろ、第一郵便課清水課長代理は、同課臨時補充員岩崎伸儀および同田中惟一郎から、「局長に遊びに来ないかといわれているので局長の家へいきたいと思うけれども一緒に案内してくれないか。」といわれ、同課長代理は局長の家を知らなかつたので、これらについて武井第一郵便課長に話した。同課長は、第一郵便課には新規採用者で大学卒は、岩崎、田中両職員のほかに鈴木崇元職員がいるから、鈴木職員も誘つていつたらどうかと清水課長代理にすすめ、鈴木職員にもすすめた。同日午後七時半すぎ、清水課長代理は、加藤局長自宅にこれから若い者を二・三名連れていくと電話し、岩崎、田中および鈴木職員の三名とともにタクシーで午後八時半ごろ加藤局長自宅(東京都品川区旗の台)に着いた。その時先客として集配課の中村清一課長代理(郵政労組合員)、斎藤幹愛、佐藤秀雄、池沢昇および宮下敏男職員の四名の統括責任者(当時、斎藤、佐藤および池沢職員は、全逓新宿支部に脱退届を出しており、宮下職員は、全逓組合員であつた。)が来ており、六畳の部屋で酒肴を並べて歓談中であつた。加藤局長は、清水課長代理ら四名を同席させたが、同課長代理は、「ここに集まつた者は同じ考えの者で、私と同じ第一郵便課に勤務している者です。」といつて鈴木職員らを紹介した。加藤局長はすぐにみんなに酒をすすめた。その席上、同局長は、「郵政事業は三代しなければ一つの仕事を達成できないと私は考えている。全逓の斗争主義者たちは三代かからなければできないことを破壊する。」との旨発言した。しばらくたつたあと、清水課長代理は、鈴木、田中両職員に郵政労加入届をくばつて、「君達三名で臨時補充員を郵政労へ入れてくれ。」と要請した。田中職員はその場で加入届にサインしたが、鈴木職員は、「これはどういうことですか。」といつたところ、加藤局長は、「これは郵政省の正規の組合だ。」と発言した。鈴木職員が、「しばらく研究さして下さい。」といつたら、加藤局長は、「ええ、」とうなずいた。

午後九時すぎ、前記中村課長代理ら五名の集配課職員は、局長自宅を辞去した。清水課長代理ら四名は午後一一時ごろ辞去し、加藤局長の息子の運転する同局長の私用車で新宿駅まで送つてもらつた。その車中、清水課長代理は、「新生会のバックがわかつたろう。」

と述べた。

6 職員の父兄の呼出しについて

五月二一日、加藤局長は、集配課臨時補充員福島清治(全逓組合員)、同野沢勝夫ら一〇名の職員の父兄に対し、同人らの勤務振り等について問題があるので来局されたい旨手紙で依頼した。五月下旬から六月にかけて、前記職員の父兄ら八名が来局し、局長室または次長室で局長または次長、庶務課長および集配課長がこれら父兄らと個別に面接した。

申立人は、この際、加藤局長らが、前記父兄らにその子弟を組合に入らせないよう、または組合から脱退させるようすすめ、もし応じなければ本務採用しない。あるいは研修所への入所遅延もありうる旨示唆したと主張するが、申立人申請にかかる福島清治証人もそのような趣旨の証言をしておらず、申立人が主張する事実があつたとは認められない。

(二) 全逓の誹謗・郵政労の賞揚等について

1 小林職員らに対する局長の発言について

加藤局長は、昭和四〇年四月二〇日午前九時ごろから二・三十分間、集配課の臨時補充員である小林宏一、松島市郎、渋川久雄、佐藤忠二、佐藤文雄および小沢良雄を局長室に呼んで話をした。申立人は、加藤局長がこのとき全逓を誹謗し、新生会の前身である職場を明るくする会を賞揚したと主張する。

しかしながら、加藤局長は、この際、「仕事になれたか。」ときりだし、自己の少年時代の苦労話をしたあと、「組合に入りましたか。一度組合に入るとなかなかでられなくなるから、入るんだつたらよく考えて入りなさい。」、「職場でも休憩室でも暗くなつてしまうほどビラがはつてある。職場の中でもゴタゴタしている。」という趣旨の話をしたことは認められるが、申立人が主張する事実があつたとは認められない。

2 高橋書記長および上野執行委員についての誹謗について

申立人は、五月五日、集配課長伊藤章が、全逓組合員である同課職員福島清治を議長席に呼んで、全逓新宿支部高橋書記長および同支部上野執行委員を誹謗したと主張する。

しかしながら、伊藤集配課長が、福島職員を課長席に呼んで、作業態度について注意を与えたことおよびその際、同課の上野郁生職員(全逓新宿支部執行委員)と木口敏宏職員(全逓新宿支部青年部副部長)を引き合いにだし、「ああいう人達は態度が悪いから見習つてはいけない。」という趣旨の注意をしたことは認められるが、これは執務上のことについて注意を与えたものにすぎない。

なお、同課長がこの際、高橋書記長の名をあげたという事実は認められない。

3 木口青年部副部長および上野執行委員の誹謗について

申立人は、六月一五日、伊藤集配課長が、全逓組合員である同課職員木口敏宏(全逓新宿支部青年部副部長)および福島清治が局内で作業中大声で、木口青年部副部長および上野執行委員を誹謗したと主張する。

しかしながら、この点については、伊藤集配課長が「木口だとか、上野だとか一回まわるのに何日かかるんだ。」といつた事実は認められるが、これは両人の執務態度に注意を与えたものにすぎない。

三、差別人事関係

1 井上執行委員および松尾職員の配置換えについて

加藤局長は、昭和四〇年三月一日付で全逓新宿支部執行委員井上文雄を第一郵便課通常係から保険課内務係に、五月三一日付で同支部の元支部長であつた松尾晋を第一郵便課窓口係から間接特殊係に、それぞれ配置換えした。

申立人は、これらの配置換えは組合活動を困難ならしめるためのものであると主張するが、これについては立証がない。

2 池沢職員の統括責任者への任命について

加藤局長は、四月二一日付で新生会会員である集配課主任池沢昇を同課の班の統括責任者に任命した。

これは、同職員が当該班の主任中の最古参であつて、順当な人事であるというべく、同職員が新生会会員であつたがためになされた措置とは認められない。

3 北川職員の昇任について

新生会会長である第一郵便課主任北川博俊は、五月一四日付で主事に任命された。

これは、同職員の勤務成績にもとづいて行なわれたものであつて、同人が新生会会長であつたがためになされた措置とは認められない。

4 研修所への入所遅延について

申立人は、加藤局長が、臨時補充員福島清治、同野沢勝夫、同鈴木崇元および職員湯田義美に対し同人らが全逓組合員であること、あるいは新生会に加入しないことを理由に慣例を無視して、研修所への入所を遅らせたと主張する。

福島および野沢職員は、昭和三九年八月、新宿郵便局に臨時補充員として採用されたものであり、当時同局においては、採用後ほぼ六・七カ月後に研修所へ入所するのが通常であつたが、両職員は、採用後約一一カ月後の昭和四〇年七月に研修所(初等部訓練)に入所したことは、被申立人も認めるところである。

しかしながら、研修所への入所は、将来本務者に任命換えすることが適当であると認められる勤務成績良好な者に対して行なわれるものであつて、福島職員および野沢職員の研修所入所が通常の場合よりも遅れたのは、両職員の勤務成績が良好でないと当初認められたためである。

鈴木職員は、昭和四〇年三月、新宿郵便局に臨時補充員として採用されたものであり、大学卒で、ほぼ同じごろ同局に臨時補充員として採用された岩崎伸義および田中惟一郎とともに、七月七日に研修所入所予定になつた。

このことは、武井課長が六月二〇日同職員にあらかじめ内示しておいたところである。ところが同職員は、六月二九日および三〇日の両日年次有給休暇の承認を得て、郷里の長野に帰つていた。休暇期間がすぎても出勤しなかつたので武井課長が、七月一日および同月三日に電報で鈴木職員に出局を命じたがなんら返事がなかつた。七月六日に至つて鈴木職員の兄から、「扁桃腺炎のためあとわずかよろしくたのむ。」との返電があつたので、局では、翌日の入所に間に合わないとみてこれを取り消したことが認められる。

湯田職員は、昭和三九年四月採用と同時に初等部郵便外務特別訓練研修員として研修所に入所しているのであつて、入所遅延の事実は認められない。

四 職場集会の妨害、掲示物の撤去等関係

1 四月二〇日の職場集会妨害について

昭和四〇年四月二〇日午後五時ごろから、保険課外務室において、全逓組合員約六〇名が職場集会を開いた。この集会は、外務室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、同集会場に加藤局長、吉田次長および福島庶務課長らがおもむき解散するよう通告したが、この集会は、五時一〇分ごろまで続行された。

申立人は、その際、加藤局長らが高橋書記長の身体を押して、同人を室外へ追いだそうとしたり、「全逓は革命の練習をしている。」と叫んで集会を妨害したと主張する。

しかしながら、加藤局長らが、組合幹部に対して解散するよう強く指示したことは認められるが、申立人が主張する事実があつたとは認められない。

2 五月一〇日の職場集会妨害について

五月一〇日午後〇時三五分ごろから、集配課休憩室において、休憩時間中の全逓組合員約七・八十名が、職場集会を開いた。この集会は、休憩室利用について、郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、同集会場に吉田次長、福島庶務課長および伊藤集配課長らがおもむき、再三携帯マイクまたは大声で解散するよう通告した。この集会は、一時ごろまで続行された。

この解散通告に対して、組合員が抗議した。高橋書記長はマイクで解散を通告している管理者の方へ向つていつたが、郵袋につまずいて倒れてけがをした。

3 組合掲示物の撤去について

六月七日ごろ、新宿郵便局一階通用口附近にある全逓新宿支部の掲示板に、当局の許可を得ないで同支部の掲示物が貼布されていた。六月八日、福島庶務課長は、住谷同支部支部長に対し、許可を得ていないという理由でこれを撤去するよう申し入れた。さらに六月九日同課長は、組合が応じなければ局側で撤去する旨口頭で通告したが、同支部がこれにも応じなかつたので、六月一〇日、福島庶務課長および庶務課労務担当主事犬塚強一が、掲示物を撤去した。

4 六月七日の職場集会の監視について

六月七日午後五時ごろから、四階年賀区分室附近において、全逓組合員約八〇名が職場集会を開いた。この集会は、年賀区分室利用について、郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、五時一五分ごろ同集会場に福島庶務課長および犬塚労務担当主事らがおもむき解散するよう通告したが、この集会は、五時四五分ごろまで続行された。福島庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかをみきわめるため同集会場にとどまつたが、これによつてこの集会の運営が影響をうけたとは認められない。

5 郵政労新宿支部への掲示板の供与について

六月八日、郵政労新宿支部からの申し出により、加藤局長は、同支部に全逓新宿支部のものとほぼ同一大の掲示板を供与した。当時の新宿郵便局における郵政労の組合員数は約六〇名であつたのに対し、全逓の組合員数は約四七〇名であつた。

6 六月一一日の職場集会の監視について

六月一一日正午ごろから、四階年賀区分室附近において、全逓組合員約一二〇名が、組合掲示物撤去に対する抗議集会を開いた。この集会は、年賀区分室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後〇時二〇分ごろ同集会場に福島庶務課長らがおもむき、解散するよう通告したがこの集会は〇時五五分ごろまで続行された、福島庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかをみきわめるため、同集会場にとどまつたが、これによつてこの集会の運営が影響をうけたとは認められない。

7 庁舎使用に関する差別取扱いについて

六月一四日の昼ごろ、全逓新宿支部業対部長井上文雄から、当日の午後五時半から九時までの間の食堂の使用許可願がだされた。

福島庶務課長は、使用目的が職場会でかつ集合人員が一五名とあるのをみて、井上業対部長に、「それ位の人数なら組合事務室(約二〇平方メートル)でできるのではないか。組合事務室でやりなさいよ。」といつて、使用許可願を同人に返した。井上業対部長は何もいわず、これを持ち帰つた。

なお、食堂は夜間勤務者に対する給食等の必要もあり、新宿郵便局としては、他の使用目的になるべく使用許可しない方針であつた。

他方、六月一四日の昼ごろ、郵政労新宿支部から、当日の午後五時半から六時半までの間の貯金課外務室の使用許可願がだされた。福島庶務課長は、使用目的は組合事務で集合人員は二〇名であつたが、同支部には、組合事務室を供与してなく、さらに業務に支障がないと認めたので、これを許可した。

第三 当委員会の判断

一 全逓脱退・新生会加入しようよう等関係

1 局長自宅における郵政労加入しようようについて

第2・二・(一)5で認定したとおり、清水課長代理(郵政労新宿支部結成の中心人物)が、加藤局長の自宅で、鈴木職員らに郵政労加入のオルグ活動を行なつたことは事実である。

申立人は、加藤局長が、清水課長代理と共謀して、鈴木職員らに郵政労に加入するようしようようしたと主張したが、これについての立証はなく、そのような事実は認めることができない。申立人も最終陳述書においては、加藤局長は清水課長代理の郵政労のオルグ活動に積極的に協力したと主張するに至り、その具体的事実として加藤局長の自宅における同局長の言動を指摘する。

清水課長代理がいずれの組合にも属していない鈴木職員らに対するオルグ活動を行なうについて、局長自宅の酒食の席を利用したことは疑惑をまねく軽卒な行為であるが、局長がこれを制止しなかつたことあるいは局長のこの際の発言をもつて全逓の運営に介入したということはできない。

2 その余の点については、第2・二((一)・5を除く)で認定した事実に徴し、当局が全逓の運営に介入したものとはいえない。

二 差別人事関係

申立人は、井上執行委員および松尾職員の配置換えは、組合活動を困難ならしめるための措置であると主張し、また北川職員および池沢職員の昇任等の措置は、同人らが新生会の会長または会員であるためになされた措置であると主張するが、第2・三・1から3までに認定した事実に徴し、その主張は認められない。

申立人は、被申立人が、臨時補充員福島清治らを同人らが全逓組合員であることあるいは新生会に加入しないことを理由として、それらの者の研修所への入所を遅延せしめたと主張するが、第2・三・4で認定したとおり、福島および野沢職員については、同人らの勤務成績によつて入所が遅れたものであり、鈴木職員については、同人が無断欠勤によつて入所に間に合わなかつたため入所を取り消されたものであり、さらに湯田職員については入所遅延の事実はないので、申立人の主張は認められない。

三 職場集会の妨害、掲示物の撤去等関係

1 四月二〇日および五月一〇日の職場集会妨害について

申立人は、被申立人が、これら職場集会を不当に妨害したと主張するが、第2・四・1および2で認定した事実に徴し、その主張は認められない。

なお、当局の許可を得ないで局庁舎内で行なわれた集会に対して、当局が解散するよう通告することが集会に対する不当な妨害といえないことは当然である。

2 六月七日および六月一一日の職場集会監視について

申立人は、被申立人がこれらの職場集会を監視して運営に介入したと主張するが、第2・四・4および6で認定した事実に徴し、その主張は認められない。

3 組合掲示物の撤去について

当局は、第2・四・3で認定したとおり、全逓新宿支部の掲示物を撤去した。申立人は、この組合掲示物の撤去は組合の運営に対する介入であると主張してその救済を求めている。

当局が、組合掲示板を認めながらも、これに掲示する物について事前許可を要求することが妥当でないことおよび掲示された掲示物を無許可であるという理由で撤去してしまうことが組合の運営に対する介入にあたることは、すでに当委員会が昭和四〇年三月八日命令第二七号(郵政省延岡郵便局事件)において示したところであり、本件は、これにあたるものであるが、その後、郵政省は、この取扱いを、組合に掲示板の設置を許可した以上、個々の掲示物については許可は必要でないという取扱いに改め、全逓もこの措置を了承し、今日に至つている。したがつて、これは解決している問題であつて救済命令を発する必要はない。

4 郵政労新宿支部への掲示板の供与

申立人は、当局が郵政労に対して全逓と同じ大きさの掲示板を供与したことが、全逓の運営に対する介入であると主張する。

しかしながら、組合員数の少ない組合に対して、組合員数の多い組合と同じ大きさの掲示板を供与してはならないという理由はない。

5 庁舎使用に関する差別取扱いについて

申立人は、被申立人が、全逓新宿支部の食堂使用許可申請を担否しながら、郵政労新宿支部に対しては貯金課外務室の使用を許可したことは全逓の運営に対する介入であると主張するが、第2・四・7で認定した事実に徴し、その主張は認められない。

よつて当委員会は、公共企業体等労働関係法第二五条の五第一項および第二項ならびに公共企業体等労働委員会規則第三四条を適用して、主文のとおり命令する。

昭和四二年二月一三日

公共企業体等労働委員会

会長兼子一

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